一時はコロナ禍で危機的状況であったが…
さて、マクラーレンが(正確にはマクラーレン米国法人が)、「カスタムオーダー率の上昇」「最新モデルの受注が1年先まで完売している」「カスタマーの平均年齢が6歳も下がった」との報告があり、同社にとって少しずつ「良い兆し」が見られたとのこと。
マクラーレンは近年、コロナ禍で急激に業績を悪化させていました。(2022年は180億円の赤字で終えていた)
その影響で、「本社の土地と社屋を売却し、とりあえず20年間はリース契約」「従業員33.3%の1200人を解雇」など危機的な経営状況が度々報道されていました。
スーパーカービジネスはいかに受注生産で車を販売するかが大事
マクラーレンといえば「フェラーリ」や「ランボルギーニ」と肩を並べる、スーパースポーツ性能を持ったスーパーカーを扱うメーカー。
ただし、マクラーレン以外の上記二社はコロナ禍に関わらず業績を伸ばしていて、その主な理由は「全て受注生産でかつ、キャンセルも無く生産・販売できたから」。
逆に言うと、マクラーレンは「需要を見越して先に車を生産しておき、在庫を抱えないように生産分を販売していく経営スタイル」が失敗したということ。
これは、普通の自動車メーカーではよく採用されていると思いますが、マクラーレンほどの「超高級車メーカー」も同じ方針であったのは個人的に驚きでした。
品質の底上げを目指した新CEO
経営難による資金不足でニューモデルを新開発することが難しく、「アルトゥーラ」、そして既存モデルの720Sのマイナーチェンジ版である「750S」、マクラーレンGTの改良版の「GTS」を発売して当面の利益を捻出し、何とかニューモデルの開発を並行し進めているという状況です。
そんな中、新CEOのマイケル・ライタース氏(ポルシェやフェラーリにて開発部門を率いてきた人物)が就任し、最初に取り組んだのが「製品の品質向上」。
同氏が就任後に1番ショックを受けたのが、「完成されていない状態の製品を、そのまま顧客に提供していた」こと。(勿論、マクラーレンが目指すスーパーカーとしての品質という意味)
そのため、上記の「アルトゥーラ」を販売する際はその品質確保のために(会社の財務状況にリスクを伴ってでも)、4度も販売延期を行なっています。
販売店やお客さまに伝えるべき重要なメッセージ、それは、これからは品質が重視されるということです。もう、”このクルマはすごく速く走るから、魅力的だから、多少の品質の問題は許してね”とは言いません。もう、そうではないのです。
マイケル・ライタース マクラーレンCEO
受注状況の改善とカスタムオーダー率の向上
そんな、地道な品質改善への努力が身を結び、現在「750S」は1年先まで完売状態。
しかも利益率向上にとても重要なファクターであるカスタムオーダー率の向上を達成しています。(フェラーリやランボルギーニ、ロールス・ロイスの大きな利益率もこれが要因。そのブランドの価値が高いと判断されなければ、この率は上昇しない)
またカスタマー平均年齢が、44歳と以前より6歳も下がったとのこと。
どの自動車メーカーもこの「カスタマー平均年齢」は大事で、それは単純に購入者が若いと車の「一生での購入機会が多い」から。
また、SNSで自ら自社製品を発信して広告してくれたり、会社の大きな方針転換やブランドイメージ変更に対しても柔軟に受け入れられ易い、などが大事とされている要因です。
実際、ロールス・ロイスはSUVの「カリナン」を販売する事で顧客の平均年齢を43歳に下げることに成功。
これは同じグループのBMWやMINI(50歳)、他グループではメルセデス・ベンツ(51歳)、ベントレー(56歳)よりも若い結果です。(世の中にはロールス・ロイスを購入できる程、若くして成功している方が多いんですね…)
今後のマクラーレンがどういった経営戦略を採るのか
そんな経営難を乗り越えようと奮闘中のマクラーレンですが、気になるのが「今後もSUVを販売しないのか」。
日本では以前ほどのバブルは少し落ち着いたように感じるものの、世界では依然大きな販売シェアを占めるSUV。
今やほとんどのメーカーのラインナップに用意されているセグメントですが、マクラーレンは未だ販売されていません。
前CEOであるマイク・フレウィット氏は「利益のためにSUVをつくることはない。もしSUVに依存するなら、我々の顧客への背信行為となる」と発言するなど、否定的でした。
ただ、新CEOマイケル・ライターズ氏はポルシェでSUVを開発、その後フェラーリでもSUV開発に関わってきた経歴がある(自身もSUV好きを認めている)ので、以前よりは同社の「SUVアレルギー」は減っているようです。
マクラーレン幹部が社内グローバルディーラーミーティンにて、「2028年に4席4ドアの新しいモデルに『期待して』と語った」という報道もあり、とりあえず財務状況や経営安定を最優先した後にSUV開発に着手するようですね。
どんな車になるのか、2028年まで楽しみに待とうと思います。
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