今より小型のポルシェ・911の誕生は実現不可能

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ポルシェに限らず、車のサイズアップは現代の大きな流れである

さて、ポルシェの現チーフデザイナー、マイケル・マウアー氏が、「現在の911は大きくなりすぎている」とコメントしました。なぜ車のサイズアップが現在の時代のトレンドなのでしょうか。

主な理由は安全規制と環境規制、快適性

新型車の発表されると、モデルチェンジ前より小さくなる事はほぼありません。

サイズアップの主な理由として、「安全規制」、「環境規制」と「快適性」が挙げられます。

車の運動性能が向上し続けているため、安全性能の強化は必須である

1つ目の理由として「安全に関する規制強化」。

日本国内では、新型国産車を販売する際の、「衝突軽減ブレーキの装着」が2011年11月から義務化されました。(輸入車は2024年7月〜)

このように現代の自動車には必須となっている安全装備ですが、その機能には大きく分けて「パッシブセーフティ」と「アクティブセーフティ」の2種類があります。

・パッシブセーフティ:事故発生時の被害を最小限に抑えるための安全装置で、運転者や同乗者、接触した相手となる車や歩行者への被害も抑えるためのもの。具体的には「衝撃吸収構造ボディ」「3点シートベルト」「SRSエアバッグ」など。

「衝撃吸収構造ボディ」や「SRSエアバッグ」は、前面や側面からの衝撃に対して強固な構造として空間を維持するためでなく、衝撃を吸収する構造と乗員を守るエアバッグが展開するだけのスペースも必要で、それが車両の全長や全幅の大型化の原因に。

・アクティブセーフティ:事故を未然に防止するための安全装置。具体的には「衝突被害軽減ブレーキ」「ABS誤発進抑制機能」「車線逸脱抑制機能」など。

上記の安全装置達を搭載することで車両重量(それに加えて価格も)が上がっていきます。

全CO2排出量の20%が「交通、運輸」であり、車両は環境負荷の大きな一因である

同じ排気量の場合、車が小さく軽いほど、燃費は上がり環境性能が上がります。

しかし上記の「安全性能の向上に伴う大型化」がある程度避けられない以上、時代と共に厳しくなる環境規制をクリアするには排ガスをクリーンにするための様々なデバイスを取り付ける必要があります。

それがまた車重を大きくする原因になり、それに対応した動力性能を備えるための「ターボ」や「ハイブリッドシステムなどの電気の力」が必要になるという「負のスパイラル」に陥ってしまっているのが現状です。(動力性能を上げれば、ブレーキやサスペンション、ボディ性能の底上げも必要に)

もう一つ、大きな要因の1つが快適性の需要

そして興味深いことに、車重増加の1番の要因は「顧客が車に対する快適性をより求めるから」であると、BMW「7シリーズ」のプロジェクト・マネージャーを務めた「クリストフ・ファグシュランガー氏」が以前に述べています。

例えば現代の高級車のフロントシートには「マッサージ機能」「フル電動調整機能」「シートヒーターに加えてベンチレーション」までが搭載されており、これによって1脚あたり40kgもの重量増加がある、とのこと。

それに加えて、ロードノイズや振動を抑えるための防音材や制振材の重量もあり、「ユーザーが車に求める快適性」に応えるためにクルマが重くなると述べています。

ただ、この「快適性の向上」に対する技術発展は目覚ましい進歩を遂げていて、例えば「静粛性」に対しては「アクティブノイズキャンセリング技術」。(イヤホンなどでおなじみの機能ですね)

これは、小型の高性能マイクにより、車室内に発生する路面振動に起因するノイズ成分を検知。車載サウンドシステムからロードノイズと逆位相の波形を持つ「耳に聞こえない音」を走行時は常時出力することにより、不快なノイズだけを打ち消すという仕組みです。

EV車の、エンジンを持たないモーターによるパワートレーンは、静粛性が圧倒的に高いという利点がありますが、逆にロードノイズが目立って不快という欠点も。

勿論、この「アクティブノイズキャンセリング技術」はEV車にも搭載可能で、この「音や振動をコントロールする」分野は今後より必須技術になるでしょうね。

車のサイズダウンを目指すにはEV化が必須なのかもしれない

Michael Mauer 

そしてポルシェに話を戻しますが、まさに上記の「安全規制や顧客が求める快適性に対応するための大型化→それによる重量UPによるネガを消すためのエンジン自体やそれ以外の技術でのパワー追加→そのパワーと重量を受け止めるだけの足回りやブレーキの強化」という負のスパイラルに陥っており、マイケル・マウアー氏は以下のようにも語っています。

「理想的には、可能な限りコンパクトで軽量な、より小型の911を導入したいと考えていますが、これは現在の内燃機関の時代には実現不可能です。ただしEV技術が成熟するにつれ、エネルギー密度が向上し、バッテリーパックを小型化できるようになれば、あるいは将来的に(技術的に)可能になるかもしれません。」

ただし、現状では顧客が求めるだけの長い航続距離を走破するには、大容量のリチウムイオンバッテリーを車に搭載する必要があるため、内燃機関車に比べEV車は車両重量がかさむ傾向にあります。

そのため、それを支えるタイヤの寿命は、内燃機関車に比べてEV車の方が短命という調査結果も。

従って、EV技術の発展がこの「車のサイズアップ化」を食い止める1つの解決策になるかもしれませんが、まだまだ先の未来になりそうです。

911といえばパワーは勿論、その扱い易いサイズも大きな長所であったのだが…

参考までに、水冷モデル以降の911のサイズを大まかに比較すると、

996型全長4,430mm / 全幅1,765mm /
車体重量1,320kg
997型全長4,425mm / 全幅1,810mm /
車体重量1,440kg
991型全長4,491mm/ 全幅1,808mm/
車体重量1,350kg
992型全長4,51mm/ 全幅1,852mm /
車体重量1,515kg

と、モデルチェンジを重ねる事にサイズアップしている事が分かります。元々RRレイアウト方式を取っている911はホイールベースがかなり短く、パワーが上がるにつれ直進安定性を確保する為に、「ホイールベース」や「トレッド幅」を増加してきたのでしょう。

ただポルシェとしても、これ以上911のサイズアップは望んでいないということですね。

それでも「ポルシェ・911」は、現代スポーツカーの中ではまだ軽量を保っている

ちなみに911は、その運動性能をふまえると最新モデルの992型でもかなりの軽量さを保っています。

例えば競合モデルの「R−35・GTR」では1,784kg、「メルセデスAMG GT」に至っては1,970kgとほぼ2トン。(※911は、最重量モデルのターボで1,649kg)

特にこの「メルセデスAMG GT」の1,970kgはミニバンの重量に匹敵する程重く、ちょっと異常。

ちなみに「1970kgある車」の例では「トヨタ、2代目ヴェルファイア」や「三菱 デリカD:5」など。

「メルセデスAMG GT」が現モデルでかなり重くなった理由(※旧モデルでも1728kgと既に重かった)が、「4WD化」、「4シート化」「テールゲートが電動開閉式」「トランクスペース拡大」などで、これも快適性の向上が原因と思われます。

車のサイズアップを憂うのであれば、僕らカスタマー側も車に色々なものを求めてはいけないのかもしれませんね。

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